子育てをしている上では大切なママ友やパパ友。
しかし、時にはトラブルに発展して最悪の事態になることもあります。
今回は、2020年4月に福岡で起こったママ友トラブルから5歳の男の子が命を落とした痛ましい事件を例に、ママ友パパ友トラブルの背景や対処法、予防法についてコミュニケーションの専門家でアドラー式子育ての熊野英一さんに聞きました。
当事者どちらも勇気をくじかれている
福岡で起こったこの事件について、報道で知ることができる限りの情報を元に考えていこうと思います。
事の発端とされているのが、子ども同士が同じ幼稚園に通う2人がママ友になったこと。
いつしか2人は「ボスママ」と「子分」といった様な関係となり、結果として「子分」にあたるママのお子さんが犠牲になってしまったということだと思います。
まず、この2人のことを知った時に感じたのは、2人とも勇気がくじかれている状態にあったということです。
アドラー心理学では、不安や恐怖などを抱えて心が健全でなく、ありのままの自分を受け容れられないため、正常な判断ができなかったり、人生に前向きに取り組んでいくことができなかったりする状態を「勇気がくじかれている」という表現を使います。
このケースだと、一見、支配している「ボスママ」に原因があり、「子分」は被害者のように感じられ、「ボスママ」の方だけが勇気をくじかれていると見えるかもしれませんが、そうではないと感じます。
「どうしたら人は仲良くなれるだろうか?」ということ基とするアドラーで大事にしているのは「共同体感覚」と言って、人間同士が手を取り合って、協力しながら生きていくこと。
その中では、自分自身も大事にするし、相手も同じように大事にすることを目指しています。
つまり、どちらから見ても人として対等な関係が求められるわけです。
しかし、このケースではどちらから見ても対等とは言えない関係です。
もちろん、「上司と部下」「先輩と後輩」など、形式的な上下関係は社会の中にあります。
しかし、例えそのような関係であっても、人として見たときには同じように尊重されるべきであり、対等である必要はありますよね。
ましてやママ友同士となれば、そもそも形式上の上下関係もないはずです。
その中で、なぜ上下関係が生まれたのか?
勇気がくじかれている状態の人の中には、自分の弱さや恐怖を隠すために、威圧的な態度や言葉などを使って相手をマウントすることで、自分の存在意義を保つタイプの人がいます。
このケースで言えば、それが「ボスママ」にあたると考えられます。
一方で、反対に自分を弱い立場や従う立場に置くことで、自分の存在意義を保つタイプもいます。
このケースで言えば「子分」にあたると考えられます。
つまり、支配する側と支配される側はそれぞれがお互いに依存する「共依存」という形で自分を保つという方法を選択し、そこから抜けられなくなってしまったが故にエスカレートし、最悪の結末に繋がってしまったのではないでしょうか。
2人のそれまでの人生のことは正確に知ることはできませんが、推測するにライフスタイルを形成する過程で、正当な評価を受けられなかったり、物事を上手く運ぶことができなかったりという勇気がくじかれてきた背景はあるかもしれませんが、それぞれが自分のために取った行動は短絡的で、決していいことではありませんよね。
トラブルの対処には第三者の存在が必要
この関係は、勇気がくじかれている状態においては、誰にでも起こりうることだと思います。
なぜなら、誰かが支配し、言うことを聞かせるという関係は、太古の時代から作られてきた最も原始的な組織構造であり、一見、スムーズに進んでいるように見えることもあるからです。
例えばそれは親の言うことが絶対という親子や、全ての意志決定を夫がする夫婦。
または子ども同士、友達の間でも、そのような関係になってしまうことがあります。
もしかしたら皆さんの周りや皆さん自身にも経験があるかもしれません。
では、そのような状態になってしまったらどうしたらいいのでしょうか?
まず、留意しなければいけないことは「当事者に自覚はない」ということ。
自分が渦中にいたとすれば「どうしたらいい?」という考えに至ることはあまりないと考えられます。
むしろ「この状況はよくない。なんとかしないと」と考えている時点で、かなり清浄な判断が保てていると考えられます。
やはり深刻な状況になった時には、第三者の手が必要になってくることは間違いないでしょう。
では、そのような状況の人が近くにいる場合の動き方を考えてみましょう。
もしも今回のケースのように子どもに危害が及んでいる場合であれば、児童相談所など公的な機関や、通っている幼稚園や保育園などに懸念を伝えて動いてもらうことが必要となります。
もちろんこれはできるだけ早く、早急に動き出すことは最悪の結末を免れるために大切です。
例え間違っていた、取り越し苦労だったとしても気になったら動いた方がベターです。
では、そこまでは深刻ではない場合。
もしも、アドラー心理学を学んできた私が、2人に声をかけるとすれば・・・
「世の中にはもっと他にもあなたを受け容れてくれる人がいるよ」
という言葉になるでしょう。
冒頭にも言った通り、2人はそれぞれの事情で勇気がくじかれてしまい、周りが見えなくなっていると感じます。
だからこそ、もう少し客観的になったり、視野を広げてみたり、というきっかけを作ってあげたいと考えます。
そして、「あなたにはあなたのありのままで価値がある」ということを伝えること。
例え今間違ったことをしていたとしても、決して価値がない人間などいません。
そこに注目してくれる人がいない、受け止めてくれる人がいないからこそ起こっていることなので、まずはその部分について伝えて上げる必要があると感じます。
また、不運にも何かこういった事態に巻き込まれ、自分を見失ってしまった時に、このような第三者の言葉やアドバイスが必要と言うことがわかれば、深刻なことにならないための予防法も見えてくるでしょう。
そう、普段からあなたの周りにいる人たち、これまであなたと関わってきた人たちと丁寧なコミュニケーションをとって大切にすることです。
それは時には家族かもしれませんし、別のママ友やパパ友かもしれません。
あなた自身が、気がつかないうちに巻き込まれていく様子に気づいて「大丈夫?」と声をかけてくれることでしょう。
そこで我に返ることができる可能性は充分にあると思います。
どんな人も、決してひとりで生きていくことはできません。
周りの人たちと協力しながら、それこそ「共同体感覚」を持って進んでいこうとしていれば、きっといい形で進んでいくと思います。
熊野さん、ありがとうございました!
改めておさらいすると…
ポイント
- 支配する人も、支配される人も「勇気がくじかれた状態」になっている
- 当事者には気づきにくい問題になってしまったときは、第三者の介入が必要
- 普段から家族や周りの人たちを大切にすることで、前向きに進むことができる
今回の事件だけでなく、子どもが被害に遭ったという事件を目にすると、本当にいたたまれない気持ちになります。
しかし、熊野さんも言うように決して他人事ではなく、誰にでも可能性があることでもあるので、改めて自分の行動や考えを見直す機会にすることが大切になってくると感じます。
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