自分の子どもが強いコンプレックスを持っていた場合、親としては向き合い方に悩むこともあると思います。
そんなときはどうしたらいいのか?
実際に読者さんからあった質問に対して、アドラー心理学に基づくコミュニケーションの専門家で、アドラー式子育ての熊野英一さんからアドバイスを教えてもらいました。
自身もハンデがあったアドラーが考えたこと
今年の春に小学校に入学予定の息子のパパです。
息子は生まれつき、手にハンデを持っています。
小さいときには、本人も友達もあまり気にしていなかったのですが、最近、本人も友達もそのことをお互いに意識するようになり、息子も手を隠そうとするような行動が見られます。
今後、どう対応したら良いでしょうか?
私が研究し、皆さんにお伝えしているアドラー心理学の創設者、アルフレッド・アドラー自身は、くる病という病気を持ち、160cmに満たない小柄な身体に対する劣等感を、自身の心理学の中心的な柱として捉えました。
アドラーは当初、劣等感を「他者との比較において、劣る自分」に対する感情と捉えました。
そこには、いわゆる身体の障害のように客観的に判別できるものや、私はバカだ、とか、私はブサイクだ、とか、あくまでも相対的で一面的な思い込みにすぎない主観的な劣等感、あるいは、自分自身のことではない環境(例:家が貧しい、とか、親が犯罪者だ、など)に対するネガティブな感情もあると整理しました。
そして、こうした事柄に対して、ネガティブな感情を選択し、非建設的で破壊的な行動をとることを「劣等コンプレックス」と呼びました。
つまり、「俺は、もともと障害があるから、俺の人生はどうにもならない、いつも無実の被害者として、ひねくれて生きていこう」と決意したり、「私はブスだから、どうせモテない。もう一生独身でいればいいんだ!」と拗ねた態度をとったり、「こんな貧しい家に生まれた僕は、結局、金持ちになるための教育も受けられず、給与レベルの低い仕事をして、貧困を引き継いで行くんだ」と決めつけたりすることを言います。
コンプレックスが力になることもある
一方、アドラーはたくさんの劣等感を有するクライアントと接するうちに、一方ではかなり多くの人が、劣等感を感じる事象を、むしろ健全な成長のバネとして捉え直し、それを補償するために、より多くの努力をして、普通の人よりも秀でる存在になっていることを発見しました。
つまり、身体のハンデも本人がどのように捉えるか次第で、当事者の人生にプラスに作用することは大いにありうるという事を見つけたのです。
実際、背が小さいマラドーナが世界有数のサッカー選手になったり、とても貧しい環境に産まれた孫正義さんが日本有数の事業家として成功したりするなど、劣等感をバネにして秀でた業績を作った人は枚挙にいとまがありません。
私の初の著書「育自の教科書」には、アドラー心理学を実践することで、親子の関係が大きく改善したリアル・ストーリーがたくさん収録されていますが、その中に「ありのままの子どもを受け入れるーハンデを持った息子と私」というタイトルの、ある親子の記録があります。
少し前に、アドラー心理学の勉強会で、久しぶりにこのお母さんに会ったのですが、隣には、高校1年生になった息子のT君が立っていました。
自分がこのハンデを受け入れ、ありのままの自分らしさで自分の人生を生きていくと決意したT君は、将来、心理カウンセラーになって、障害を含む色々な理由で劣等感を抱え、悩んでいる人を助ける仕事をしたい、という夢を持ち、自らの意思で、その勉強会に参加していたのです。
大人の中にたった一人の高校1年生。
一般的な高校一年生の誰よりも成熟して、将来を見据え、建設的な毎日を送っているT君の姿をみて、私は大いに勇気づけられました。
ハンデを持った子を産んだ母親は、T君を産んでからの数年間、毎日泣いていたそうです。
やがて、アドラーに出会い、子どものありのままを受け入れることの大切さを学び、自分の子どもに対する眼差しが変わったとき、子ども自身も自分のハンデを受け入れられるように変化したそうです。
ハンデという事実をありのままに受け入れることができた親子の姿は、勉強会に参加していた多くの大人にたくさんのことを教えてくれました。
身体的なものだけでなく、生育環境などさまざまな部分でハンデがある方はたくさんいると思いますが、今一度捉え方について考えてみてはいかがでしょうか?
熊野さん、ありがとうございました!
改めておさらいすると…
ポイント
- 身体的なものや環境などの障害をネガティブに受け止めることを「劣等コンプレックス」と呼ぶ
- コンプレックスをバネにしてプラスにした人たちもたくさんいる
- 親も子供自身もありのままを受け入れることが大切
自分ではどうにもできないことは身体的なハンデだけではないですが、それを受け入れてプラスにする努力をすれば、きっと道は拓けていきのではないでしょうか?
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