小学生のランドセルが重たいという問題について、栃木県の小学生たちがその負担を軽減するために発明した「さんぽセル」。
ネットでは、一部の大人からの批判が殺到し、それに反論する小学生の様子が話題になりました。
そんな一連の状況をアドラー心理学的に紐解いてみるとどのように考えられるのか?
コミュニケーションの専門家でアドラー式子育ての熊野英一さんに聞きました。
子どもたちが発揮した「やってみよう」「なんとかなる」
今回「さんぽセル」の話題を聞いて、最初に感じたことは、発明した小学生たちが本当に素晴らしい!ということでした。
それは多くの人も感じたことかもしれません。
ランドセルが重た過ぎるという問題は以前からありましたし、実際に今の小学生たちもなんとかならないかと思っていたことでしょう。
今回発明に関わった小学生は、その課題に対して向き合い、その方法を自ら考えたというのですから、それは賞賛に値することだと思います。
慶応大学の前野隆司教授が提唱する「幸福学」は知っていますか?
名前の通り、幸福について学術的に研究しているものですが、その中で前野先生は幸せを感じる人には4つの因子があるとしています。
その4つとは・・・
- 「やってみよう」
- 「ありがとう」
- 「なんとかなる」
- 「あなたらしく」
すごく簡単にまとめると、「夢や目標や、強みを持って、つながりや感謝を大事にし、前向きで楽観的に、自分らしく生きている」ということになります。
今回の「さんぽセル」の発明はこの4つの中の「やってみよう」「なんとかなる」という2つを小学生たちが形にしたものだと思います。
ただ単にやってみようと思っただけではなく、それを実現するためにある課題についても、なんとかなると信じて進んでいったのでしょう。
子どもたちが持っているポテンシャルというのは、いつも我々大人の想像を超えてくるもの。
だからこそ、こうして自由に考えて進んでいくパワーを大人たちはサポートして、アドラー心理学で子育ての大きな目的と考える「自立」に導いていくことが大切なんですよね。
ところが、この発明に対して賞賛の声だけでなく、批判が相次いだとのこと。
これは非常に残念だと感じます。
批判する大人たちが持ち出す「大人の事情」
前回のコラムでも触れましたが、批判する大人はおそらく「勇気がくじかれている」状態にあると感じます。
改めてアドラー心理学では、不安や恐怖などを抱えて心が健全でなく、ありのままの自分を受け容れられないため、正常な判断ができなかったり、人生に前向きに取り組んでいくことができなかったりする状態を「勇気がくじかれている」という表現を使います。
物事を斜めに見てしまうそんな状況では、きっと子どもたちの発明の素晴らしさを素直に認めることは難しいでしょう。
そして、行動としては粗を探し、さもそれが正しいかのように指摘することでマウントを取ることで自分の存在意義を見いだしているのではないかと思います。
しかもそれがネットでの匿名であれば、自分が傷つくリスクもないわけで、反論への恐れも感じられます。
しかも、その批判に用いられる視点が当事者である子どもたちの目線ではなく、いわば大人の理論で語られていることも気になります。
例えば、「(重たいものを持たないと)筋力が落ちる」というコメントがありましたが、そこには「子どものうちは重たいものなどを持ってカラダを鍛えるべき」という考えがあるように感じます。
しかし、筋力を上げるためには筋トレをすればいいとも考えられますし、そもそも筋力を上げるレベルではなく、カラダを壊す危険があるほどの重さになってしまっているという課題からもズレてしまっていますよね。
それにそもそもランドセルがここまで重くなってしまったのは、学習指導要領の変化で教科書のページ数が増えたことやカラー印刷などで紙そのものが重くなったこと、さらに最近ではデジタル教育のためタブレット端末を持ち運ぶことが、原因とも言われています。
これらは全て、大人たちが子どもの勉強のために良かれと思ってしたことですが、子どもたちにとっては大変なことであり、そこに子どもたちの意見は入っていません。
そして、現実として重くなったにも関わらず、それに対応して「ルールを変えよう」と声をあげる勇気がなかったようにも感じます。
そんな現状に対して「なんとかしたい!」と声をあげた子どもたちの方が、よほど勇気を持っていると思います。
ただ、きっとこれは子どもたちだけが素晴らしかったのではないと感じます。
子どもたちの勇気を支えたのも大人たち
こんなに素敵な子どもたちが育った環境について考えてみましょう。
先ほどの批判している大人たちが、やりたいことが出来ず、批判ばかりされ、認められた経験が少ないことで勇気をくじかれているとしたら、きっとこの小学生たちはその逆の環境があったと考えられます。
おそらくこれまでも彼ら小学生たちは何かを言ったときに
「それは素晴らしいね」「よしじゃあやってみよう」
と周りの大人たちのサポートを受けてきたのではないでしょうか?
ましてや商品化にまで辿り着いていることを考えれば、「さんぽセル」に関しても子どもたちだけですべてをやってきたわけではないことは想像できます。
そんな大人たちがいるということも素晴らしいことだとは思いませんか?
今回の件に限らず、子どもたちの発想は豊かではあるものの、時に抜けている視点があったり、またビジネスとしては難しいものもあったりするかもしれません。
それでも、やりたいという気持ちを応援し、また見守る姿勢こそが彼に勇気を与えたのだと考えられます。
小学生にしてまさに自立し、そして勇気を持っている彼らの強さは、ネットで集まった批判に対しての行動からも感じられます。
批判を受けて、すねたり、落ち込んだり、また不適切な方法で注目を集めようとしたりせずに、一つ一つの批判に反論を始めたわけです。
つまり勇気をくじかれた大人たちの批判に対して、勇気を持った子どもたちは負けなかったということです。
「さんぽセル」を作った子どもたちが今後どうなっていくのか、どんな社会課題を解決していくのか、楽しみだと思いませんか?
きっと彼らのような子どもたちが成長していけば、世の中はもっと良くなると楽しみになりますよね。
であれば、我々ひとりひとりができることとしては、わが子はもちろん周りの子どもたちに対しても、大人の事情で批判をするのではなく、どうしたら上手くいくかを一緒に考え、サポートしていくことだと思います。
まずはこの「さんぽセル」が成功すること。そして、「さんぽセル」に続く、子どもたちや若者たちの斬新な発明が出てくることを心から願います。
熊野さん、ありがとうございました!
改めておさらいすると…
ポイント
- 「さんぽセル」を考えた子どもたちの「やってみよう」「なんとかなる」という気持ちは何より素晴らしい!
- 批判しているのも大人だが、彼らに勇気を与えたのも大人。未来のためにも勇気を与える側の大人になっていければ。
- 勇気を持った子どもたちは、勇気をくじかれた大人たちの批判には負けない
アスリートが活躍するとその親や指導者にスポットが当たることがありますが、もっと身近なところでも、勇気を持って頑張っている子どもたちがいて、それを支える大人たちがいるんですよね。
そして自分たち次第で子どもたちの勇気をくじくことにもなれば、勇気を与えることもできるということを改めて考えさせられました。
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