世界的ベストセラー『嫌われる勇気』で知られるようになったアドラー心理学では、「子どもをほめない」という考え方があるそうです。
子どもは「ほめて伸ばす」「ほめてやる気にする」と言われることが多いですが、いったいどういうことなのでしょうか?
アドラー心理学のメソッドを基にしたアドラー式子育てを広めている熊野英一さんに教えていただきました。
まったく「ほめない」わけではない
先日セミナーの参加者から
「アドラー心理学では『子どもをほめない』と言いますが、それはどういうことですか?」
という質問がありました。
そこで今回は、アドラー心理学で言うところの「ほめない」とはどういう意味なのか?
今日は改めて整理してみたいと思います。
確かに、よくアドラー心理学では「ほめない」という表現を使います。
しかし、子どもに対して「ほめる」ということを、まったくしないというわけではありません。
まず、子育ての目的を「子どもの自立」と捉えているアドラー心理学では、この「ほめる」という行為を、2つに分けて名前をつけています。
ひとつは「子どもの自立にプラスになるほめ方」。
子どもにとってやる気に繋がるもの、子どもの背中を押すものとして“勇気づけ”と呼びます。
もうひとつは「子どもの自立にマイナスになるほめ方」子どものやる気をそいでしまうもの、また子どもの自立に向けた成長の足を引っ張るものとして “勇気くじき”と呼びます。
その違いは、操作の下心があるかどうかです。
下心とは、親や先生など、私たちほめる側の心の中に、子どもを自分の思い通りにしたいという感情です。
その下心がなければ、そのほめ方は“勇気づけ”となり、逆に下心があれば“勇気くじき”になるのです。
下心を持ったほめ方“勇気くじき”がいけないワケ
下心を持って「ほめて、おだてて、子どもを動かす」というように「ほめる」ことは、むしろ子どもの勇気をくじき、子どもの自立の足を引っ張る可能性があるものとして、使わない方が良いと考えるのがアドラー心理学の立場です。
つまり、アドラー心理学で言う「ほめない」とは「下心を持ってほめない」ということです。
「○○あげるから、言うことを聞いて。(聞いてくれたら)えらいね~!」
「△△ができたら、動画を見てもいいよ。できた?すごいね!」
こうした、明らかに下心がある、望ましくないほめ方を多用していると、やがて、子どもは「ほめられるから、やる。
ほめてくれないなら、やらない」という行動原理を身につけてしまう可能性が高まります。
そうすると、「ほめてくれる人が見ているなら、ゴミを拾うが、誰もほめてくれないなら、ゴミなんか拾わない」というように、過度に他者承認に依存した考え方を身につけてしまうかもしれません。
ほめ言葉だけではなく、モノで釣るような操作も同じです。
エスカレートしていくと、「○○なんかじゃ、イヤだ!もっと高価な△△じゃなきゃ、やらないから!」などと、労働闘争のような交渉を挑まれることになるかもしれません。
また、無意識のうちにやってしまうことが多いのが「結果が出たら、ほめる」ということ。
「テストの点数がいいからほめる」
「運動会で一等をとったからほめる」
この二つはまさに結果をほめています。
これは「もし結果が出なかったら、どうしよう。ほめられないどころか、怒られるかもしれない」と、むしろ、子どもの勇気をくじくことになり、挑戦すらしないようになってしまうかもしれません。
しっかり観察、しっかり共感
では、アドラー心理学でいう「勇気づけ=子どもが自分の課題に対して逃げずにチャレンジしたくなる気持ちを持つこと」につながる、望ましい「ほめる」とは、どのようなものでしょうか?
それは、シンプルに言えば「結果をほめるのではなく、プロセスや努力に注目して共感する」ことです。
大切なのは、結果が出ても出なくても、挑戦しようとする気持ち、色々と工夫してみたプロセス、うまくいかなくても最初からやり直してうまくなろうとする努力を、よく観察、注目することです。
それを知った上で、悔しい、恥ずかしい、情けない、なにくそ、うまくなりたいなど、その時の子どもの気持ちに「共感」して、認めてあげてください。
パパやママが結果に一喜一憂せずに、その手間のプロセスや努力をしっかりと見てくれていて、自分の気持ちをわかってくれるとしたら、どれだけ嬉しく、勇気がわいてくることでしょうか。
これが、自立に向かって進んでいく勇気に繋がる、つまり“勇気づけ”なのです。
子どもは、100%の確率で親の期待に応えることはできません。むしろ、応えられないことの方が多いでしょう。
成長途上にいるのですから当たり前です。
皆さんだって、上司や顧客やパートナーや子どもから、常に100%のパフォーマンスを求め続けられていたら、とてもじゃないけど、やっていられないのではないでしょうか?
そう、大人も同じなのです。
ぜひ、皆さんも、子どもはもちろん、家族全員、職場の人に対しても「勇気づけ=望ましいほめ」を実践してみてください!