かつては競うことで子どもたちは伸びるとして、いろいろな分野で勝負を求められてきましたが、その方向性は変わってきました。
一方で、勝ち負けの経験は必要という意見もあり賛否両論あります。
アドラー心理学の観点からみると、幼少期の「勝つことを絶対的な目標とする考え方=勝利至上主義」はどう捉えられるのでしょうか?
今回はコミュニケーションの専門家で、アドラー式子育ての熊野英一さんに聞きました。
勝つ事が子どもにとって幸せか考える
体育会系一家で育ってきて自分自身も柔道をやってきました。
今、3歳の息子にも柔道をやらせたいと思っていたのですが、小学生の全国大会が廃止されると知って、ちょっと残念です。
やっぱり勝ち負けで成長することがあると思うのですが、どうでしょうか?
習い事で人気なものは、もうずっと水泳がトップで、サッカーや野球も根強い人気。
一方で、格闘技も習わせたいという親が増えているという話を聞いたことがあります。
その背景には身体的な成長もありますが、礼儀も学べるところがあるそうです。
そんな柔道で、先日小学生の全国大会を廃止することが決まりましたが、アドラー心理学に基づいた私の見解は、賛成の立場となります。
もちろん、勝負をすることで得られる成長がないとはいえません。
ただ、幼少期の勝利至上主義がいいことだとは思えないところがあるからです。
アドラー心理学の究極目標は、長期的に人生を通してその人の幸せを考えることにあります。
大会で勝利を収めることは簡単なことではありません。
才能という部分もありますが、長時間にわたり、厳しい練習を行うことが必要になります。
それが地道な努力を積むことでの成功体験になれば、成長に繋がる面もあると思いますし、そのような方法で成功したトップアスリートもいるかもしれませんが、それは一部に過ぎません。
実際に、柔道に限らず多くの競技で、早い段階で結果を出した、いわば早熟なタイプのアスリートが、その後、活躍できていないという現状があります。
そんな中で、勝利することだけに目が行き、小手先の技術を磨いていくこと。
また、スポーツ以外のことを経験する時間を削ってまでする価値があるかと言われれば、おすすめすることは難しいと考えられないでしょうか?
子ども本人の思いや選択を尊重する
今回の質問されたパパも柔道をされてきたそうですが、それで培った成功体験もあると思います。
また指導に携わる方も多くは同じ経験をしてきた人。
現在の勝利至上主義の問題点は、そういった周囲の喜びとしての勝利が、子ども本人の思いや将来の成長よりも優先されていることが多いことです。
特に経験してきた人は、自分がそう指導されてきたように、子どもたちに伝えることが多くなります。
そんな中で、今回の全柔連が決めたことは、今まで価値があると信じてきたものを、もう一度考え直して出したという意味では英断だったと思います。
子どもたちの「今、勝ちたい」という気持ちには共感できます。
もちろん、親や指導者の「今、勝たせたい」という気持ちにも共感できます。
しかし、それが子どもの将来のためであるかと考えた時には同意することはできません。
では、どうしたらいいでしょうか?
「自己決定」が原則のアドラーとしては、やはり子ども自身の選択を尊重することが必要だと思います。
親としては失敗して欲しくないという心配な思いがあるため、いろいろと言いたいことが出てくると思います。
それは当然のことです。
もちろん選択をするために重要な要素については、未熟な子どもに対して伝えることはあってもいいと思います。
ただし、そこで誘導することはおすすめしません。
親が決めてしまうという経験を積むことで、子どもは自分で考えるということをしなくなり、活気がなくなっていく傾向があります。
時には親から見て不正解だと思うような選択をすることもあると思います。
しかし、自ら選択してうまくいかなかった経験を受け止めることは、将来に向けた成長に繋がることも考えられると思いませんか?
もちろん、うまくいかなかったときには親がフォローしましょう。
勝利至上主義からの脱却だけでなく、最近は先生たちの負担が大きい部活を前提としたスポーツの現場にも変化が求められています。
また日本では幼いことからひとつのスポーツに集中することが多いですが、海外では様々なスポーツを経験することが多く、その方がいいという考えも広がっています。
自分たちが育った頃の考えや経験にとらわれず、今、目の前にいる子どもの将来にとってどんなことが大切なのか、長い目で考えてみることも必要だと思います。
熊野さん、ありがとうございました!
改めておさらいすると…
ポイント
- 幼少期の勝利至上主義は、長い目で見ると良くないケースが多い。
- 親や指導者の喜びではなく、長い目で見た子どもの成長に注目。
- どうするかは子ども自身が決めて、親はしっかりフォロー。
幼い頃から、勝つことを求められてきた親世代からすると、自分たちと違う方針で育つ我が子のことが心配になってしまうと思います。
でもそもそも自分たちと違う子どもに対して、同じように教育した方が良いとは限らないので、柔軟に対応していきましょう。
また、熊野さんのアドラー式コミュニケーションの講座では、家庭はもちろん仕事でも使えるコミュニケーションのコツを学ぶことができます。
こちらも気になった方はぜひチェックしてみてください!