11月22日の「いい夫婦の日」に向けて、アドラー心理学に基づくコミュニケーションの専門家で、最近、アドラー子育て・親育てシリーズの第3巻「夫婦の教科書 〜愛に向き合い、家庭をつくる〜」(アルテ・刊)を出版した熊野英一さんに聞く夫婦円満の秘訣。
先輩夫婦の言葉から大切なことを紐解きます。
結婚式での誓い、覚えていますか?
少し前になりますが、テレビを見ていたら、オーストラリアのメルボルンの街角で老夫婦にインタビューしている場面に遭遇しました。
50年を超える結婚生活を経てもなお、仲睦まじく寄り添って散歩するお二人に、新婚の女優さんが長年二人で仲良く過ごせる秘訣を尋ねたところ、二人が全く同じタイミングで「Patience ! (忍耐!)」と答えたのには笑えました。
ただ、このときのお二人の表情はとても柔らかく、言葉の印象とは裏腹に、とても暖かくポジティブな空気がテレビ画面から伝わってくるようでした。
なぜでしょうか?
確かに、「Patience=忍耐」という言葉を聞くと「我慢する」「イヤなことを耐え忍ぶ」といったネガティブなイメージを抱きやすいかもしれません。
長い結婚生活を考えれば、ポジティブなことばかりということは考えられず、辛い状況を耐えて乗り越えなければならないことも多いですものね。
「健やかなるときも、病めるときも、喜びのときも、悲しみのときも、富めるときも、貧しいときも、これを愛し、これを敬い、これを慰め、これを助け、その命ある限り、真心を尽くすことを誓いますか?」
結婚式で、このような誓いの言葉に「イエス」と互いに答えたからこその夫婦です。
現実は、ポジティブなことも、ネガティブなことも、両方体験しながら共に歩んでいくのが結婚生活というものです。
でも、いつの間にか、ポジティブなことは「当たり前」になってしまい、それに対する感謝の気持ちを忘れがちになる一方で、ネガティブなことにばかり注目していることはないでしょうか?
- パートナーを責める
- 自分の不運を嘆く
- かわいそうな自分をアピールする
- 諦めて、不幸を耐え忍ぶ
といった非建設的な言動が増えてしまっているとしたら、今一度、結婚式での誓いの言葉を思い返す時かもしれません。
Patience(忍耐)の本当の意味
メルボルンの街角を散歩していた老夫婦の表情や佇まいを見て、私が感じたこと。
それは、結婚生活における「Patience=忍耐」とは、「自分自身が感じる辛さや苦しさ」を耐え忍ぶことというよりも、「パートナーが感じる辛さや苦しさ」を、共に感じ、受け入れ、二人で支えあって乗り越えようとしていく姿勢や行動のことなのではないか、ということでした。
長い年月をかけて、共に支え合い、困難を乗り越えてきたからこそ、この二人からは暖かくポジティブな空気が伝わってきたのだと、私には感じられたのです。
これは、アドラー心理学が目指す生き方「共同体感覚」に通じます。
アドラーがいう「共同体感覚」とは、「信頼する仲間のために貢献する存在であろうとする」ことだと私は捉えています。
もちろん、結婚相手は最も近しい「信頼する仲間」です。
そして、自分の利益だけに関心を向けるのではなく、他者にも関心を向けて、「自分は他者のために何ができるだろうか?」と考えながら生きるのが、「共同体感覚」を持った生き方と言えるでしょう。
簡単に言えば「思いやり」を持って接するということです。
同じタイミングで「Patience ! 忍耐!」という言葉が出て笑いあった後、白髪の夫が女優さんに「Happy Wife, Happy Life」というオーストラリアの格言を教えてくれました。
「妻がハッピーだったら、夫の人生がハッピーになる。だから妻がハッピーになるように行動することが夫として大切」ということです。
これぞ、自己犠牲を伴わない他者貢献。
アドラーが求めた「共同体感覚」を夫婦関係に落とし込んだシンプルな名言です。
世の中の夫が全員「Happy Wife, Happy Life」を実践したら、どんなに素晴らしいでしょう!
アドラー心理学では、自分と他者との間に「相互尊敬・相互信頼」をベースにした関係性を築くことの大切さが強調されています。
ここで言う「尊敬」は、たとえ自分の価値観と相手のそれが異なっていて、仮に同意はできないとしても、相手の価値観に敬意・リスペクトを示すことです。
ここで言う「信頼」とは、相手を信じるに足る根拠を求めずに、無条件で相手を信じるという姿勢・態度です。
日本には、夫婦が愛情を表現し、相手を受け入れ合う時間を大切にしていない現状があるようです。
その結果として、他国と比較したとき、日本のカップルのセックスレスの状況は、その頻度も満足度も世界最低レベルにある、という惨憺たる結果。
これは、日本人のQOL(クオリティ・オブ・ライフ=生活の質)を考える上で目を背けてはいけない大きな問題です。
次回は、「夫婦の性の問題」に真正面から向き合って見たいと思います。
熊野さん、ありがとうございました!
「忍耐」という言葉だけを聞くと、辛いもの、苦しいものととらえてしまいますが、アドラーの「共同体感覚」を踏まえて考えると、「思いやり」に変わるとは、大きな発見でした。
そう思えば、ともにいろいろなことを耐え忍ぶこともできますよね!
次回は、夫婦のパートナーシップに真正面から向き合ってみようとまとめた「アドラー子育て・親育てシリーズ」の第3巻であり、完結編でもある「夫婦の教科書 〜愛に向き合い、家庭をつくる〜」を書いた熊野さんによる夫婦の性について。
なかなか向き合えない問題について伺います。
また、熊野さんのアドラー式子育ての講座では、親子、夫婦だけでなく、今回のような保護者同士など様々なシチュエーションで役立つコミュニケーションのコツを学ぶことができます。
こちらも気になった方はぜひチェックしてみてください!